インサイト、カスタマーインサイト、コンシューマーインサイト、マーケティグの話をするときには日常的に使われる「インサイト」ですが、未だにその意味の共通認識がないまま使用されている気がします。
インサイトの意味
「インサイト」の意味、というか潜在ニーズとの違いについては、WOWOWコミュニケーションズさまのサイトにある説明がわかりやすいかと思います。
インサイトとは?
インサイトは直訳すると「洞察」や「物事を見抜く力」などを意味します。そして、マーケティングにおけるインサイトの意味としては、「人を動かす隠れた心理」を指しています。消費者自身も気づいていない無意識の心理ですが、認識すれば行動を起こすでしょう。
無意識の状態ということで、インサイトは「潜在ニーズ」と混同されることがありますが、これは正しいとは言えません。例えば、「痩せたい」という顕在ニーズがあると仮定します。なぜ痩せたいのかさらに掘り下げると、「健康になりたい」「おしゃれな服が着たい」「自信を持ちたい」などといった理由、潜在ニーズが見えてきます。潜在ニーズは欲求があるのにそれに気付いていない状態を指し、対してインサイトはまだ欲求さえない状態を指しています。
商品やサービスを利用してみて初めてわかる感情だったり、当たり前のこととして見過ごしている課題だったり、インサイトはさまざまなところに存在しています。
「インサイト」とは、"無意識の状態"、"まだ欲求さえない状態"という定義です。
かなり難しいですね。
一般的な会話においては、「潜在ニーズ」あたりの深さで使われているような気がします。
上記の定義ですと、「インサイト」を調査で把握するのは極めて困難に感じます。
スポンサーリンク
カスタマーインサイトの事例
具体的な事例を確認することが理解を促すかと思いますので、具体的な事例をまとめてみます。
日清食品・カップヌードルリッチ
日清食品のカップヌードルは、発売から45年を超えるロングセラー商品です。しかし、「若者が食べる」という印象が強いせいか、60歳以上の購入は低迷していました。そこで日清食品は、新しいことに意欲的で情報発信力のある、「アクティブシニア」に着目します。これまでのシニア向け商品は、減塩や低カロリーといった健康志向を打ち出した商品がほとんど。しかし、アクティブシニアを調査すると、SNSでは豪華な食事の写真が並びます。口では健康志向と言いながらも、健康のためにおいしさを諦めたくないということがわかったのです。
こうしてシニア向けにプレミアム感を打ち出した「カップヌードルリッチ」が誕生しました。健康に配慮しつつも、フカヒレスープやスッポンスープなどのぜいたくな味が特徴です。通常より高価格であるにもかかわらず、味にこだわりのあるシニア層を中心にヒットし、発売7カ月で1,400万食を突破しました。この事例は、シニア層は健康志向だから若者向けのカップヌードルを食べないわけではなく、「おいしければカップヌードルだって食べる」というインサイトの発見があります。
https://www.wowcom.co.jp/blog/775/
コメント: 言い換えると、「おいしければカップヌードルだって食べる」という無意識の心理を引き出した。のような感じですが、結構無理やりに感じますが...
フォルクスワーゲン(Volkswagen)・「Think small.」
1959年のアメリカで、自動車メーカー・フォルクスワーゲンは小型車「ビートル」のキャッチコピーに「Think small.」を掲げました。当時のアメリカは「大きいことはいいこと(Think big)」という考えが一般的で、自動車もそれにならって大型車が主流でした。
1960年のアメリカの平均的世帯人数は3.33人。必ずしも大型車が必要なわけではありません。フォルクスワーゲンは特に大型車がほしいわけではなかったり、「大きくなければ」という思い込みでコストをかけたりしている消費者のインサイトに注目し、「Think small.(小さいことが理想)」というメッセージを発信しました。優れた広告クリエイティブも手伝い、コンパクトで性能も燃費もいいビートルはアメリカ国内で爆発的に販売台数を伸ばします。「実質的なビートルを選ぶのは賢い消費者」というイメージまで獲得しました。大きい自動車が主流でも家族の数と合っていないという事実から、小さな車でも家族で乗るなら問題なくコストも抑えられると転換したインサイトの発見事例です。
https://www.wowcom.co.jp/blog/775/
コメント: インサイトの事例として適当に感じますが、潜在ニーズに置き換えても違和感は無いかと...
大戸屋ホールディングス・2階以上の店舗
大戸屋ホールディングスがチェーン展開する和定食店「大戸屋ごはん処」は、地下や2階以上に位置していることが多いです。一般に集客力が弱いといわれる地下や2階に店舗を置くのは、ターゲットである女性客のインサイトと関係があります。
大戸屋ごはん処が全国展開を始めた1990年代、和定食チェーン店はまだ少数。さらに、定食店は男性がたくさん食べるために行くところというイメージが強くありました。大戸屋ホールディングスは新たな客層である女性を呼び込むため、「一人での外食が苦手」という女性の気持ちに着目。調査を進めると、一人で外食するのが苦手なのではなく、「一人で店に入るところを見られたくない」というインサイトが見つかったのです。地下や2階という人の目に触れにくい場所に店舗を構え、きれいで明るい内装や野菜をふんだんに使ったメニュー、当時珍しかったカロリー表示などで女性客の心をつかみました。
https://www.wowcom.co.jp/blog/775/
コメント: インサイトっぽいですね!
スポンサーリンク
ライオン ナノックス
2010年に発売されたライオンの液体洗剤「ナノックス」。この商品の強みは、植物油脂を原料とする新しい成分による高い洗浄力。洗剤の訴求は「高い洗浄力で白くします」という形が一般的だったが、ご存知の通りその市場は成熟しており、洗浄力をアピールしユーザーを惹きつけるのは難しい状況だった。
そこでインサイトを見直した。
そもそも日本人は、他国と比較しかなり洗濯をする。30~40代の既婚女性に対して実施したウェブアンケート調査でも、日本人の洗濯好きは際立っていた。毎日洗濯する人の割合は、ベルリンの3倍、ソウルの4倍もあったのだ。
「毎日洗濯するということは、目で汚れを見つけて洗濯機を回すわけではない。ならば白さはそこまで重要では無いのでは」という仮説が成り立つ。この仮説を確かめるため、ライオンは洗濯に対してこだわりを持つ主婦らを集めてインタビューをおこなった。
結果はやはり、どれだけ白くなったかはあまり意識されていなかった。主婦たちは汚れを、服に染み付いたニオイで判断していたのだ。
このインサイトに基づき、ライオンは顧客に伝えるナノックスの価値を、高い洗浄力に加えて、「ニオイまで落とすこと」に変化させた。
その結果、半年で当初の販売目標を30%上回ることができた。
https://markecchi-lab.com/marketing-insight/#i-3
コメント: 顕在化しているニーズにも感じますが、洗濯は「白さ」が重要と言われつづけていたなぁとも思います...
アメリカで最も成功したマーケティングのひとつ「Got Milk?」キャンペーン
1990年代初頭、アメリカのカリフォルニア州では牛乳の消費量が落ち込んでいた。1980年は1人当たり30ガロンだったのに対し、1993年には24.1ガロン。カリフォルニア牛乳協会は牛乳の消費量を増やす対策を打つべく、広告代理店GS&Pにアイデアを求めた。
当時、牛乳の主な訴求ポイントは「栄養価が高い」「カルシウムが豊富」「健康に良い」など。実際、消費者の「牛乳をもっと飲むべき」という意識は80年代に比べて高まっていた。にもかかわらず、消費量は下降の一途を辿っていたのである。
そこで、GS&Pとカリフォルニア牛乳協会は牛乳をよく飲む人を対象に定性調査を実施。その内容とは、対象者に1週間牛乳を飲まない生活を過ごしてもらい、食生活の記録と、その後のグループインタビューを実施するものだった。
すると、牛乳をよく飲む人たちにもかかわらず、「調査があるまで牛乳のことを考えたことがなかった」という人が多く、「牛乳を飲めないことに気づくと、牛乳のことばかり考えてしまう」「牛乳が欲しくてイライラした」といった声があがったのだ。
この結果から、人々が牛乳のことを考えるのは、牛乳が欲しい場面で牛乳がない時だけだという事実が判明。いわば、牛乳は「失って初めて気づくもの」の類であった。
そして、牛乳が欲しくなる場面とは、パンやシリアル、クッキー、カップケーキなどを食べる時であった。
https://since2018.jp/knowledgebase/case-study/1202/
コメント: 現代人の視点からすると、「消費者理解が乏しくないか...?」なんて思いましたが、30年位前の話なので、目から鱗だったんでしょうね!
ナショナル:「家事がラクになる=子育てに手を抜いている」という深層心理を発掘
家電メーカーのナショナル(現パナソニック)は、2003年に食器洗い乾燥機の売上がピークに到達し、当時は洗濯機よりも食洗機の方が売れるほどヒットしていた。しかし、2003年を境に売上はだんだん減少し、薄型テレビやななめドラム式洗濯機、サイクロン掃除機などイノベーティブな家電が次々と登場したこともあり、食洗機の市場自体は縮小していった。
そこでナショナルは、ニーズが高いとされていた子育て層をターゲットに販売戦略を練る。様々な調査を進めていくと、競合他社を含めた食洗機の主な打ち出しは、「最新の技術によって家事がラクになる」という文脈のもの。しかし、この訴求は本当に正しいのだろうか?もっと響く打ち出しがあるのではないか?
そう考えた同社は、子育て層の潜在的なニーズを探るために、日常生活を徹底調査してターゲットの深層心理を解明することにした。
すると、子育て層には「子育てをしっかりやることが愛情表現である」という潜在意識があり、「家事がラクになる=子育てに手を抜いている」と見られるのではないか、と考えていることがわかった。つまり、育児や家事の負担を家電で解消することに罪悪感があり、それが食洗機への需要にブレーキをかけていたのである。
そこでナショナルは、食洗機がもたらす価値の訴求を大きく変えた。すなわち、「家事をラクにする道具」から「子どもと一緒にいられる時間を長くする道具」への変換である。
こうした広告展開などによりターゲットの罪悪感を取り除き、深層心理にある欲求=コンシューマー・インサイトを発掘したことで、競合が撤退し低迷する市場の中で唯一、右肩上がりの業績を記録。
今や、食洗機市場はパナソニックがほぼ独占するほど、確固たる地位を築くきっかけとなったのである。
https://since2018.jp/knowledgebase/case-study/1188/
コメント: 深い洞察ですね〜
事例の確認を通じて、インサイトと潜在ニーズの明確な違いは分かりませんでしたが、消費者の声や行動を起点に、消費者の本音、心の声を粘り強く探究した結果に出てくる答えがインサイトかと解釈しました。